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中小企業のPR戦略「 『記者冥利に尽きる』 記事を書いてもらうために 」
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11ネット 顔の見える士業等のネットワーク 有限会社プリズム PRプランナー 妹尾浩二
企業のトップや広報担当者の大切な役割、そのひとつは、マスメディアに「良い記事」「良いニュース」を報道してもらうことです。記者は社会に新しい視点を届けるスクープや、読者の心を動かす人間ドラマを常に探しています。取材先に触れ、「この記事が誰かの出会いのきっかけになった」「困っている人の支えになった」と感じたとき、彼らは「記者冥利に尽きる」と語ります。広報の仕事は、その記者の情熱に火をつけ、社会をより良い方向へ動かす取材のきっかけを作ることなのです。近年、日本の報道環境は大きく変化しました。ニュースサイトのPV競争が激化し、SNSでは速報性や話題性が重視される一方、読者の「信頼できる情報」へのニーズが高まっています。生成AIの普及は記者の取材のあり方にも影響を与えました。AIが大量の簡易記事を作れる時代だからこそ、記者は人間にしか書けない現場の発見や感動、ストーリーの核心を求めています。PR TIMESのような配信サービスの投稿数は急増し、AIを使った発信も増えました。しかしその多くは「新商品発売」「イベント告知」といった事実の羅列にとどまり、記者の心を動かす「良いネタ」にはなっていません。広報が提供すべきなのは、単なる商品の宣伝ではなく「社会的な意味を持つ物語」です。たとえば、地方の小さな葬儀社が高齢化や災害と向き合いながら新しい会館を建てた背景や、そこに込めた「地域の人々を守りたい」という思いなどです。あるいは伝統産業がデジタル技術を取り入れ、若い人材とともに地域再生をめざす挑戦もそうです。こうした話は単なる商品紹介ではなく、社会課題を背景にしたリアルな人間の努力が記者の共感を呼び、記事に命を吹き込むことにつながります。 最近は「地域発のニュース」が再評価されています。たとえば2025年、琴平町でのデジタルノマド誘致が全国紙やテレビで報じられました。単なる観光PRではなく、人口減少や空き店舗活用といった課題と世界のリモートワーカーを結びつけた物語だったからです。大企業の華やかな新製品発表より、中小企業や自治体が持つ「地域を、社会を元気にしたい」という熱意にこそ、記者たちは価値を見出しています。一方、記者は日々とても忙しいのが現実です。取材の担当分野が広がり、SNS発信も求められ、紙面や番組の枠は縮小しています。だから広報する側は、ただ情報を投げるのではなく「取材するべき理由」をはっきりと示す必要があります。データや事例を整理し、社会課題とのつながりを示し、現場の空気や人の感情を伝える準備が重要です。プレスリリースの書き方ひとつでも、冒頭で「誰のどんな悩みを解決するか」を明示し、経営者の声を添えるだけでも記者に届く確率は大きく上がります。また、リリースの下書きづくりを生成AIが助けてくれる今だからこそ、広報担当者は「人間にしかできないこと」にもっと時間を使うべきです。経営者の原体験を掘り下げ、組織の価値観を言葉にし、記者の心が動くきっかけを先回りして提供しましょう。それは手間がかかりますが、記事が世に出て記者と読者の心を動かしたとき、企業と記者の間には信頼と絆が生まれるからです。 記者の側から見れば、AI時代における仕事の価値は「人の物語を紡ぐ力」に集約されます。広報が誠意を持って社会的意義のあるネタを届ければ、記者は「書いてよかった」と感じられる記事を生み出せます。そうした記事は、回りまわって社会を少しずつ良い方向に動かす力を持っています。だからこそ、経営者や広報の皆さんには、もう一歩踏み込んでほしいのです。単なる告知ではなく「誰かの人生に寄り添う物語」を発信してください。彼らが「記者冥利に尽きる」と感じる仕事を一緒に作れたなら、それは結果として企業の信頼を高め、社会での存在価値を示す最良の広報になります。
以上
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