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なぜ今「母国語での安全教育」が必要なのか?
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企業保険の11ネット/リスクコンサルタント
礒村 安倫

 かつては日本人だけだった工場や建設現場に、今では多くの外国人労働者が職場の仲間として加わるようになりました。法務省の統計によると、外国人労働者数は2023年時点で約200万人を超え、10年前の約2倍に達しています。人手不足を補う戦力として、多くの企業が技能実習生や特定技能人材を受け入れていますし今後は職種も増えていくでしょう。しかし、その急増と裏腹に現場では深刻な課題が浮かび上がっています。その課題とは労災事故です。厚生労働省の労災統計によると、外国人労働者の労災発生件数は2015年から2023年の間に約3倍に増加し、その中でも特に墜落・転落事故や機械巻き込み事故が目立ちます。これは言葉の壁による「安全知識の不足」が大きな要因と考えられています。技能実習制度では、母国である程度の日本語や生活マナーの教育を受けることになっています。しかし、実際には「労災防止のための安全教育」まで徹底されているケースはごく一部なのです。その理由は職種や企業ごとに労働環境が変わるため教育や災害防止訓練の実施が難しいことが挙げられます。そのため多くの研修生は、現場に出て労災に巻き込まれて初めて命に関わる危険があるのだと知るのが実情です。
 一方で、労働災害が発生した場合企業側には4つの責任があります。
 @ 刑事責任: 労働安全衛生法違反・業務上過失致死傷罪
 A 民事責任: 不法行為責任や安全配慮義務違反による損害賠償
 B 行政上の責任: 作業停止・使用停止等の行政処分
 C 社会的責任: 企業の信用低下・存在基盤の喪失
 特に「安全配慮義務」が法律で定められており、これを怠った場合は、Aの民事責任による損害賠償請求だけでなく@の刑事責任にも問われるリスクがあります。実際、外国人研修生が死亡した事故で企業側が約7,000万円の損害賠償を求められた事例も存在します。このような背景の中、問われているのは「安全教育の質」と「伝わり方」です。どれだけ丁寧に日本語で説明しても、外国人労働者に正確に伝わらなければ意味がありません。「言いました」ではダメで「伝わった」が重要になるのです。実際にある建設会社では、ベトナム語の動画マニュアルを導入したところ、ヒヤリ・ハット件数が1年間で40%減少。教育効果が明確に数字として現れました。「母国語での安全教育」は、単なる翻訳ではありません。彼らの文化的背景や常識、価値観を踏まえた“その外国人個人が納得できる伝え方”と“各企業特有のリスク”の説明が必要なのです。そうすることで彼らは自らの命を守る意識を高め、自分の職場や自分の行動にどんなリスクが潜んでいるかを予見でき、事故を未然に防げるようになるのです。これからの時代、外国人材を単なる“労働力”として捉えるのではなく、“共に働く仲間”として迎える姿勢が企業に求められています。労災事故は企業側にとっても被災した側にとっても利益になることはありません。どちらにとっても悪夢なのです。その悪夢対策の第一歩が、母国語で命を守る教育を行うことです。御社の現場でも、今日から見直しを始めてみませんか?

以上
 
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