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努力目標から法的責任へ
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企業保険の11ネット/リスクコンサルタント
礒村 安倫

 2025年6月1日から、厚生労働省の通達により、職場における熱中症対策が法的に義務化されます。これにより、WBGT値(※1)や気温が一定基準を超える環境下で作業を行う企業には、作業者の体調変化への対応体制や、重篤化防止の措置を講じることが求められます。これを怠った場合、企業は労働契約法第5条が定める「安全配慮義務」に違反したと見なされ、民法上の債務不履行責任を問われる可能性があります。さらに、行政指導や労基署からの是正勧告、そして社会的信用の失墜といった重大なリスクも伴います。
 ※1 WBGT値とは人がどれくらい暑さを感じているかを数値で表したもので「暑さ指数」とも呼ばれており、下記のように分類されています。
 ・25未満:注意、一般的に危険は少ないが激しい運動や重労働を行う際には熱中症になる危険性がある。
 ・25以上28未満:警戒、激しい運動や重労働を行うと熱中症になる危険性がある。
 ・28以上31未満:厳重警戒、通常の生活活動を行うだけでも熱中症になる危険性がある。
 ・31以上:危険、通常の生活活動でも熱中症になる危険性が高い。
 環境省熱中症予防情報サイトより

 つまり、熱中症対策はもはや「努力目標」ではなく、企業としての法的責任であり、それを履行しないと重大なペナルティを引き起こしかねません。
 しかし、ここで前向きに考え方を変えてみましょう。ただ義務として対策を行うのではなく、それを出発点として、社員の健康環境を戦略的に整備することにより、企業の生産性と競争力を飛躍的に高めるチャンスにするのです。
 社員の健康が守られれば、集中力・判断力・実行力が持続し、日々の業務効率が上がります。体調不良による欠勤や早期離職も減り、安定的で持続可能な組織運営が実現するのです。また「社員の健康を大切にしてくれる会社で働いている」という実感は、社員のエンゲージメント向上にも直結し、職場全体の士気が自然と高まります。
 さらに、健康経営の視点で職場づくりを行えば、社内の人間関係も良好になり、チームワークが強化されます。身体的・精神的に健やかな状態で働く社員が増えることで、創造力が高まり、高付加価値な仕事が生まれやすくなります。これは単なるコスト削減の視点ではなく、企業の競争優位性を築く基盤そのものなのです。
 健康経営を実践する企業は、社会的信頼性やブランド力も強化されます。「健康経営優良法人」認定の取得をはじめ、企業の姿勢が社外に明確に伝わることで、顧客や取引先、地域社会からの評価も高まります。何よりも、就職先としての魅力が上がることで、新入社員の採用力が飛躍的に向上します。健康に配慮した職場を求める若い世代にとって、「社員を大切にしている会社かどうか」は極めて重要な判断軸となっているのです。
 このように、6月1日からの熱中症対策義務化を単なる法対応ととらえるのではなく、社員の働きやすい環境を整える絶好の契機としてみませんか? 労働契約法第5条違反や債務不履行といったリスクを未然に防ぐと同時に、企業価値を根本から高める一歩として位置づけるのです。社員みんながいきいきと働ける環境は、確実に企業を強くし、持続可能な成長と繁栄へと導いてくれます。
 今こそ、今回の熱中症対策を皮切りに、真の意味での健康経営を始める絶好のタイミングです。

以上
 
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